病院評価に貢献するプロフェッショナル医療通訳

26 2月 2018

多くの国で消費者選択は医療において大きな役割を果たします。どこの病院で治療を受けるか決める際に、病院評価は重要な要素になります。米国において、医療は長い間医療機関が競合相手と競争する市場とされてきました。米国では定期的に病院評価を発表しています。英国やドイツを含むいくつかのヨーロッパ諸国では、現在格付けという形式で情報を提供しています。

多様性をもつ住民を構成しているすべてのグループに対して、質が高い医療を提供できる能力があるかどうかが高い評価につながります。このグループには英語を話さない住民数の増加も含まれます。そこでは言語障壁がさらなる課題をもたらし、評価結果に影響を及ぼします。現在の統計によると、米国には6180万人の外国語を母国語とする人々がいます。その中には英語が母国語でない市民(LEP:Limited English Proficiency)がおよそ2500万人(人口の8%以上)含まれます。英国には420万人の外国語を母国語とする人々がいます。その中の約100万人はLEP(人口のほぼ2%)です。

これらの課題を解決しようとする病院でプロフェッショナル医療通訳が果たす役割を見ていきましょう。

 

LEP患者と不十分な医療との関連

多くの国で、LEPは英語を話す人より健康状態が劣っていることが知られています。これは、一般的な健康レベルと、医療制度における体験の両方に関連します。英語を話す病院患者とLEP病院患者に関する2005年の米国における調査は、LEP患者に関して次のことを明らかにしました。

  • 病院における長期滞在
  • 手術感染のリスクが増大
  • 指示を理解する際の問題による遅延リスクが増大
  • 健康状態を管理し治療方法を理解する際の問題による高い再入院率

これらの問題は、患者の長期的な健康状態に影響を及ぼすだけではありません。医療費を増加させる可能性もあります。また、医療に悪いイメージを持った患者は、今後助けを求めることはないでしょう。

 

医療現場における通訳の利点

LEP患者に医療サービスを提供する際に起こりうる問題に対し、通訳を利用することは有効な解決策をもたらします。スタッフと患者とのコミュニケーションを改善し、より良い健康状態をもたらします。プロフェッショナル通訳者を利用し、LEP患者のケアの質が英語を話す人々と同様のレベルに高まった例が報告されています。

通訳がもたらすメリットをいくつか見てみましょう。

 

誤解の低減

通訳者なしでLEPに医療および診療行為を提供すると深刻なリスクが発生する可能性があります。それがコミュニケーションにおける誤解です。診断と治療のエラーにつながり、最悪の場合は、患者の命に係わります。米国において、大けがまたは死に至った医療関連事故の約21%は、誤解が生じたコミュニケーションによって引き起こされました。また医療事故による訴訟の30%でコミュニケーションにおける誤解を原因として挙げています。資格認定された医療通訳者を利用することで、患者は何が起きているかを理解し、事態が悪化するリスクを大幅に減らせます。

 

患者がもつ知識の向上

通訳者は、コミュニケーション上の誤解を防ぐだけではありません。通訳者は患者の知識と健康状態の理解を助長します。これは通訳者が重要事項について説明し、与えられた助言について患者にわかりやすいように述べることで可能です。また術後ケア(post-surgery care)では特に重要です。術後ケアの一例としては、治療方針を順守し、投薬を受け、フォローアップを行い、予防措置を取る、といったことがあげられます。プロフェッショナル通訳が支援した患者は、予防的スクリーニングを受け、幅広い病気やけがを管理できる可能性が高いという証拠があります。

 

医療関係者との関係改善

通訳者により、医者および外科医と患者間でよりスムーズなやりとりができます。患者は医師を信頼し、自分がもつ症状や感情について細かく説明できます。これにより、医師は状況をより良く理解し、正確な診断を下します。対話と信頼の向上により、医師の忠告を遵守し、治療に対する同意が適切に伝わるようになるでしょう。

 

文化的観点から適切であるサービスの確実な提供

通訳者が有する対人関係スキルや感性といった「ソフトスキル」を用いて、患者がもつ文化的背景に沿った適切な方法により医療を実施できます。通訳者が双方の文化を理解することで、スムーズにコミュニケーションをとることができます。これにより医師からのメッセージと治療は患者が不要な疎外感や恥ずかしさを避けるやり方で提供されます。

 

プロフェッショナル通訳者と一般通訳者の違い

どのような通訳者であっても通訳者がいないよりはましです。しかし、一般通訳者や、地域通訳者(親戚や友人あるいはバイリンガルのスタッフなど)ではなく、可能な範囲においてプロフェッショナル医療通訳を利用することの重要性について強調しすぎることはないでしょう。

一般通訳ではなく、プロフェッショナル医療通訳者を利用するべき理由はいくつかあります。

  • プロフェッショナル医療通訳者は、医学的な通訳に関して専門的な訓練を受けています。医学用語と文化の両方に精通します。
  • 日常用語で意味を伝えることができる一般通訳者は、必ずしも正確であり適切な医学用語や翻訳について知識があるとは限りません。一般通訳は確かに価格が安いといえます。しかし通訳が引き起こす間違いは長期的にみるとコストが高くなる例があります。米国で起きた有名なケースでは、スペイン語を話す男性が一般通訳による間違いのために四肢麻痺になりました。この男性は7100万ドルを受け取りました。これは長期コストが高くなる有名な例といえるでしょう。
  • プロフェッショナル医療通訳者は、医療技術および手順に精通しています。患者の心配や危惧に対応する際に最適な立場にいます。
  • 医療通訳者は倫理上の訓練を受けています。どのようなアドバイスを与えるべきか、困難な状況でどうするかなどを理解しています

研究によると、十分に訓練された医療通訳者が引き起こすエラーは、極小となることが知られています。ある調査では、100時間以上の訓練を受けたプロフェッショナル通訳者が引き起こしたエラーは2%でした。これが100時間未満のトレーニングを受けた通訳者では12%であり、さらに一般通訳者では22%です。

 

プロフェッショナル医療通訳を利用したときの病院評価に対する影響

では、医療通訳は病院評価にどのような影響をあたえるのでしょうか? 各国はそれぞれ微妙に異なる評価システムを使用していますので一概には言えまえせん。しかしいずれの評価システムも品質およびケアの安全性に基づきます。患者が経験したことは評価に対して重要な役割を果たします。

例えば、米国の病院には、メディケア・メディケイド・サービス(CMS)センターによる星評価が与えられます。この評価は死亡率、安全性、再入院率、患者体験、ケアの有効性に基づきます。英国では、ケア・クオリティ・コミッティ(CQC)によってアセスメントが実施されます。こちらの評価は安全性、有効性、ケアの質、ニーズへの反応、リーダーシップに基づきます。患者満足度調査は、評価の中核です。

誤解を減らし、患者の知識を向上させ、医療スタッフと患者の関係を改善し、サービスが文化的に適切であることを保証することで、プロフェッショナル通訳は、主にサービスにおける患者満足度を向上させることで評価のスコアを伸ばすことができます。コミュニケーションの流れと患者の理解を改善させることは安全性レベルにも影響します。診断および治療におけるエラーを減らす、アフターケアを改善し再入院率が低下する、これらにより安全性レベルは高まります。

 

患者の満足度

今日、病院評価は患者の経験に重点を移しています。単純に上位の保健当局が作成したチェックリストに○×を入れていくだけの時代は過ぎ去りました。現代の技術は患者をあらゆる種類の指標について調査します。これによりサービスが満足いくレベルで提供されます。

米国ではCMSガイドラインの一部として、病院は Hospital Consumer Assessment of Healthcare Providers and Systems(CAHPS)を管理しています。ここではコミュニケーション、応答性、環境、情報開示、疼痛管理に関連した質問をします。英国では、CQCの患者調査でアクセス、清浄度、スタッフとの関係、ケアの質と安全性、情報の質が評価されています。

これらの分野において利用する通訳サービスは質に大きく影響を与えます。患者が医師と適切にコミュニケーションできない、患者が受け取った情報をはっきりと理解できないならば、患者と医師の関係全体を壊し、ケアの質は損なわれます。これによりスコアは低くなります。

質の高い通訳者により患者満足度が向上する、これを示唆する多くの証拠があります。米国におけるある調査では、言語サービスが満足度を72%向上させ、また顧客ロイヤルティを58%向上させることが判明しました。救急診療部における対照臨床試験における調査では、医療通訳者により、”サービスに非常に満足している患者”が22%から91%に上昇したことがわかりました。その他の地域の調査では、欧州全体の調査があります。この調査では病院における通訳の充実と高い患者満足度の間に強い関連性があることを明らかにしています。

 

その他の利益

通訳者の存在は患者の満足度スコアを向上させるだけではありません。加えて下記のようなメリットがあります。

  • 安全性の向上 – プロフェッショナル医療通訳者は一般通訳者あるいは通訳者不在よりも大幅にエラーを減らします。患者に重大な被害を与える誤診や医療事故のリスクが大幅に軽減します。
  • 再入院率の低下 – 通訳者は、患者が自分の診断を理解する、治療ガイドラインに従う、フォローアップ受けるなどの面で手助けします。これらにより再入院のリスクは減ります。プロフェッショナル医療通訳がサポートしている患者は、治療ガイドラインに従う傾向がみられるという証拠があります。

他にも多くの間接的なやりかたで医療通訳サービスは病院環境を改善します。例えば、医療関係者の生活は落ち着き、より良い仕事ができます。これは明らかに病院のスコアに影響します。米国とヨーロッパにおけるLEP居住者数は今後20~30年間でさらに増加する可能性があります。今後プロフェッショナル医療通訳者は病院の格付けにおいて重要な役割を果たしていきます。

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