法務通訳に焦点を当てている業界

15 3月 2018

法務通訳は、通訳業界で最も急速に成長している専門分野です。多くの国で、その国の言語を話す能力に限界がある住民が増えています。また住民の多様性がますます高くなっています。法務分野で適切なサービスを提供できる通訳者に対する需要は増え続けています。需要が高すぎるために裁判の延期や刑事訴訟の遅延といった問題が発生しています。

州政府が法務通訳者をつけられない場合、深刻な問題が生じます。ヨーロッパでは、人権法において、誰もが「告発の本質と原因を詳細に理解できる言語で、速やかに知る」権利および、「裁判所で使用されている言語を理解できないあるいは話せない場合、通訳者による無料支援を受けられる」権利を有します。米国では、裁判手続や裁判所命令に基づくプログラムにおいて英語能力に限界がある人には法務通訳をつけることが定められています。

法務通訳はおもに法廷で利用されます。しかし同時に法務通訳者はさまざまな状況で働きます。例として、弁護士とクライアントとのコミュニケーション、証人や被害者へのインタビュー、警察や法執行機関からの依頼にもとづいた尋問や捜査に対するサポートなどが挙げられます。

法務分野における通訳の重要性、現在の課題と問題、それらの状況を改善するために何ができるかを見てみましょう。

 

法務通訳はなぜ重要か

すでに記述したように法務通訳は世界中で注目を集めています。移民の流入は各国で見られます。現在の難民危機は減速の兆しを見せません。米国、ヨーロッパ、アジア各国で適切な法務通訳に対する継続的な需要があります。

裁判所や法務におけるプロフェッショナル通訳の利用は、関係者全員に利益を与えます。その理由をみてみましょう。

 

裁判において適切な立証が実現されます。

第一の理由は、裁判所で言語支援を必要とする被告が適切な審理を受けることを保証することです。これは欧州人権条約第6条に記述されています。これはすべての個人が有する基本的な最低限の人権です。適切な通訳サービスが提供されない場合、重大な誤審につながる可能性があります。ジーン・ギブソン(Gene Gibson)事件はこの有名な例としてよく知られています。彼はオーストラリアの先住民であり、殺人事件のために5年間刑務所に留置されました。しかしこれはのちに誤審であることがわかりました。誤審の原因は弁護士や警察とやり取りをしたときに通訳がおらず、適切なコミュニケーションができなかったためです。

 

司法制度がより正しく機能します。

より広い範囲で法務通訳を提供したときに利益を受けるのは、裁判所で言語支援を必要とする人々だけではありません。司法制度を強化し、上記のような誤審を減らし、社会全体に利益をもたらします。コミュニケーションの失敗により、不正な告発や起訴が起きると、これらの犯罪における真の加害者は依然として逃亡していることになります。被害者や証人が必要な言語支援を得られない場合、事件に対する適切な証拠が掲示できずに、審理を損なうことになります。

 

審理プロセスの時間短縮

多くの場合、資格がある通訳者が参加できない場合、審理は延期されます。適切でない通訳者が利用されると、審理に間違いが起き、リスケジュールが必要になります。これは、司法制度における歯車の回転を遅らせます。2016年に明らかになった英国の調査では適切なスキルを有する通訳者がいなかったために過去5年間で2,600件を超える裁判が延期されたことが明らかになりました。

 

費用を節約します

通訳者がいなかったために訴訟が延期されたりリスケジュールされたりすると、余計な費用および無駄な時間が費やされます。言語の問題で訴訟が上告されたときには追加費用が発生します。英国では、養子縁組の案件で通訳者を提供できませんでした。この失敗が何度も続いたために、政府側業者におよそ16,000ポンドの費用がかかりました。

 

通訳のレベルを保証します。

資格を持つ専門の法務通訳者は、2つ以上の言語に精通しているだけではありません。法制度のあらゆる側面を理解し、法的手続きに精通します。法務通訳者は法律用語の知識を有しており、倫理と指針に従うようにトレーニングを受けています。例えば公平の原則があります。これにより審理と判決が侵害されることはなくなります。裁判所の通訳者はセキュリティクリアランスが要求されます。これにより裁判所から信頼され、機密情報を取り扱うことができるのです。

 

法律事務所に利益をもたらします。

法律事務所も法務通訳から利益を受けます。熟練した通訳者により顧客に対する理解は深まります。それにより信頼関係を築けるでしょう。弁護士が間違いや誤解をすることなく、顧客と適切にコミュニケーションのやり取りができれば、審理プロセスで確固たる主張ができ、成果を上げる機会を増やせます。

 

法務通訳の課題

 

資格のある通訳が不足

熟練した通訳者の不足は世界中で見られる問題です。通訳者数は過去10年間で減少しています。ジュネーブに位置する国連の英語翻訳の責任者は、新しい人々が参画しないという懸念を表明しています。法務通訳業界は、多くの国で深刻な通訳者不足に直面しています。英国における2,600回にわたる審理の延期は、法務通訳者がいなかったためです。また、米国でも同様に深刻な通訳者不足が見られています。場合によっては臨時通訳者が使用されますが、審理において誤解や間違いが発生しています。日本でも問題は同じです。現在22名の通訳者が76箇所にものぼる刑務所を担当しています。

専門でない通訳者が臨時で利用された場合、法廷審理で誤りが発生する可能性があります。たとえば、カリフォルニア州のある審理では、英語スペイン語の通訳者が臨時で採用されたときに「交通違反」と「強姦」の用語を混同してしまいました。

 

言語多様性の増加

多くの国、特に大都市において言語は多様化が進んでいます。これはもう一つの注目すべき課題です。英国では300以上の言語が利用されています。カリフォルニア州では約220の言語が話されています。調査では、700万人の住民が上手に英語を話せません。

通訳者がこれらすべての言語を話すことは難しいといえます。また通訳にまったくサポートされていない、わずかの人しか話さない言語や方言等があります。

 

民営化されたサービス

英国における通訳者不足の問題は、法務通訳を民間業者であるCapita Translation and Interpretingにアウトソーシングしたことに大きく起因しているとみられます。2012年までは、裁判所が独立した資格を有する通訳者を直接予約していました。またこれらの通訳者は国で規定された国家通訳登録簿に記載されています。しかし、予算を節約するために、法務省(MoJ)はCapitaと契約を締結しました。2015年のMoJ統計によると、Capitaは1日あたり30件以上の審理で通訳を提供できていません。これは全体の5%以上になります。

 

資金削減

法的支援に関する予算がおよそ10億ポンドを削減されたときに、英国では民営化が進みました。法的支援を受ける監獄法に関する審理は57%減少し、自分で弁護する人々が大幅に増加しました。

必要な法的支援を確保できない場合、通訳者の仕事はかなり難しくなります。場合によってはサービスの提供が不可能になるでしょう。これにより通訳者が提供される可能性は低くなります。また、プロフェッショナル通訳者は追加のサービスカットにより引き起こされるサービス提供における問題を指摘しています。

 

現状の改善

  • スキルを有する通訳者を募集するための様々な手段 – 現在発生している通訳の不足に対処する唯一かつ確実な解決策は、リクルートメントを強化することです。例えば法務通訳に興味を持つ人々に対して必要な資格取得を後押しするといった方法があります。英国では最近新しい卒業証書資格を導入しました。これは公共セクターにおける全国的な通訳者不足を解消するためです。しかし解消すべき問題は法務通訳業界におけるリソースを確保することです。
  • 新しい技術の利用 – 例としては遠隔ビデオ通訳があります。通訳サービスを簡単に導入できるだけではありません。交通費などのコストが削減され、通訳不足を適切に解消できるソリューションです。この方法には、機器故障のリスクといった欠点があります。通訳者の役割や仕事の進め方にも影響します。研究によると、このような仕事に不快を感じる通訳者がいることも知られています。
  • 予算の確保 – これは特に英国で見られる状況です。法律サービスに関する大幅な予算削減のため、法務通訳業界が直面する問題はさらに悪化しています。これを改善するためには必要な予算を確保し、人々に適切な法務通訳サービスを与えることが重要です。すでに説明したように、お金をかけて初期に正しいことを実施することは、長期的な間違いを是正するために利用される巨額の無駄な費用を節約します。

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